ビリギャル老い易く学マジやばし・風の巻

 

なんか最近、どっかの高校で学年ビリのギャルが一年足らずで偏差値を40上げて、

四十にして惑わず!とばかりにチャチャッと試験を突破して、

あの元イタリア代表FWのデル・ピエロ(40)ですら現役引退が囁かれるこの昨今に、

現役で慶応大学に行ったってな話、流行ってるじゃないっすかー。

んー、まぁねー。

ああいうサクセスストーリーも大変結構だと思うけどもー。

 

いやはや、ほんとね。

高校行ってる時点で半分、出来レースに見えてっから。

わたし(中卒)(アルコール依存症)(ノーサクセス)に言わせりゃあね。 

 

あれが映画になるだ何だって世間で騒がれてるときの

わたしの心境っつったら、もうほんと切ないもんだったから。

あの本の読者諸兄は大概、すげぇ努力したんだなーって感心したり、

俺も試験がんばるぞーって意気込んだりしたと思うんだけど。

そもそもその共感がね、全然できないわけで。

 

まず偏差値とかいう中卒には耳馴染みのない謎の数値がタイトルに登場してるし。

だけん友だちが最初にビリギャルの話題を出したときとか、

「えーっ、偏差値を一年で40も上げたのー!?あの偏差値をー?!」つってね、

「わたし最後に偏差値計ったのいつだろー今朝計ればよかったなー」とか言ってね、

ヘンサ値ってのを血糖値やコレステロール値みたいなもんだと信じて

不自然じゃないように周りに話を合わせてたわけだけど。

 

聞けば、学力とかを測った数値、とのこと。

もう拍子抜け。

じゃあ学年ビリのギャルが偏差値跳ね上げて大学行ったって、それってつまり、

態度の悪いコンビニのバイトがやる気出して雇われ店長になった、みたいな話でしょ?

そんなのがこのご時勢に大ヒットするってどーゆーこと?

おーい、公正取引委員会らへん、ちゃんと仕事してるぅー?

 

だけん、そんなんが映画化するって聞いたときとかもうね、

リアルに苦虫を奥歯で噛み潰したような顔したし、

映画広告になってる金髪ミニスカのふてぶてしい有村架純をみたときとか、

苦虫噛み潰さずに踊り食いキメたみたいな表情してたから。

もう全然噛み潰せない。状況、飲み込めない。ほんと片腹痛い。

 

そこそこの進学校でそこそこの成績を収めながらにして

諸事情で高校進学を断念したわたしはビリにもギャルにもなりきれず、

起死回生を図ってキャバ嬢のはしくれになり、

そこそこの大型店舗でそこそこの業績を収めながら

死ぬ思いで学費を貯める日々を送っている傍らで、

某ギャルはといえばあれよあれよと偏差値を上げて優等生になり、

大学生になりベストセラーになり有村架純になったわけで。

 

とんとん拍子にも程がある。さすがにアップテンポが過ぎる。

メトロノームが首振り過ぎてむち打ちになるくらいのアップテンポ。

何かと死に急ぎがちなわたしが言うのもアレだけど、生き急ぎすぎてない?  

 

しかしまぁ、キャバ嬢としてデッドオアアライブってる間にね、

夜の空気でしか呼吸ができなくなってるひとらを大勢みてきた。

ああなったら終りだなっつー逆説的な道しるべとして捉えてた。

 

だから学費と当面の生活費が貯まったところでわたしは

骨の髄までキャバクライズされることを恐れてスパっと水商売から足を洗ったわけ。

ほんで、あとはわたしもばしっと勉強して偏差値上げて、

一年後の大学受験に臨むだけ!つって息巻いてたんだけど。

やぁー、見通しが甘かった。

 

なんか、高認試験っつーね、

地に足つけて大学受験に臨もうとする中卒をはめるための落とし穴が掘ってあった。

あっぶねぇー。

一歩間違えば落ちてたー。

アルコール依存症が治って完全に地に足つけてたら急転直下で落ちてたー。

千鳥足で、軽くレビテトっててよかったー。

 

あのね、高認試験ってのはまぁ、中卒が大学受験するのに必要な資格らしいだけど。

資格っつーかほとんど死角だし、刺客なわけ。招かれざる客なわけ。

わたしが仕事を辞めたのが今年の二月末で、

高認試験の実施日が八月の上旬となると、わたしの計算が正しければ、

ギリ六ヶ月くらいしか準備期間がないってことになる。

つまりね、高校三ヵ年間の履修範囲を半年以内できっちり仕上げないけんってこと。

 

はじめはさ、チョロいなっておもっとっただん。

いやいやいや、いくら高校三年分っつったってさ、

どうせその三年の中には夏休みとかホームルームとか土日とかが含まっとるじゃん?

修学旅行の夜の破廉恥なコイバナとか、文化祭での和気藹々とかね、

一切合財もれなく含まったうえでの三年じゃん?

なんつーか、学業と無関係なそういうエキシビジョンゲームはさ、ノーカンじゃん?

 

だけんそういうレクリエーションの類を丸々すっ飛ばして計算し直せば

高校三年分のノルマも五か月くらいに凝縮されてちょうど終る量っしょ余裕余裕ー!

つって楽観視してたんだけど。

 

もうなぁー、これ間違いなく三年かかるボリュームだった。

完全に見切り発車。 

米国立研究所のスーパーコンピュータをもってしても

オーバーフロー確実かと思われるほど膨大かつ殺人的な情報量。

二月の終りから勉強はじめて、降参!お手上げー!って三月の頭には言ってたから。

特定保健用食品!って叫びたいくらいのお手上げっぷりだった。

 

だけど、わたしは諦めずにがんばりました。

イチから毎日コツコツ勉強しました。

コツコツに次ぐコツコツ。

そして今日。

 

ええ、終りました。

高校三年分の履修範囲が、先ほど、片付きました。

しかも、予定より二ヶ月ほど早く。

 

やったよー!

わたし、がんばったよー!

キャー!

褒めて褒めてー!

ムツゴロウさんばりに可愛がってー! 

 

はぁーなんだろなー、このすさまじい全能感。

もう何を聞かれてもお任せあれとばかりに即答できる気がする。

最近は隙あらば日常会話にも「をかし」とか「わびし」とかが登場するようになったし、

日本史をズバババーッと解いてく姿なんかもはやちょっとした職人芸の域。

STAP細胞?あぁ、それなら化学の勉強してるときに見かけたぜ、とか

ついサラッと口走ってしまいそうで怖い。

 

いやー、ほんと疲れた。

今日はねぇ、いつもより深酒してるの。

ふらふらして立てないから寝っころんでこれ書いてる。

 

ほんとは豪勢にビールかけとかやりたいけど、

それは高認試験に受かったときの祝賀会のためにとっとく。

大学受かった暁には、ベルギービールの湖で泳ぎながらすき焼きを食べたい。

愚かなドリーマー。 

 

<予告>

ついに高認試験会場へと辿り着いたえるざ。

しかし試験中の禁酒禁煙を強いられ絶体絶命!

アルコール依存症の発作により真顔でペンを握れなくなってしまう!

潤いを失い鈍化する脳細胞、マークシートに滴る冷や汗。

発狂し幻覚と希死念慮に襲われる極限状態に。

 

最終手段としてシャーペンの中にねじこんでおいた煙草と

消しゴムの中に忍ばせておいた小瓶のウィスキーを摂取し

かろうじて一命を取り留め、逆転を試みるえるざが取った酔拳の構え!

そこで試験官が静かに掲げたレッドカードの意味するものとは…?!

 

 「ビリギャル老い易く学マジやばし・雲の巻」(2015年8月上旬予定)

この夏、君は、彼女の合格を祈願できるか―――。