都市ガスと四月

 

四月の中ごろから、訳あって冒険活劇チックな血みどろの逃避行に繰り出し、

一足早いゴールデンウィークを満喫したあと

大阪伊丹空港に凱旋して、いざ家に帰ってきてみたら、

ガスが完全に止まってました。

いやぁー、びっくり。

 

昨今ね、エネルギー資源の枯渇だとか、化石燃料の採掘寿命が迫ってるだとか、

それにまつわる環境問題だとか、しきりに叫ばれてたじゃない?

んー。

それは知ってた。

知っとったぁけどなー。 

いやはや、まさか世界からガスがなくなる日がこんなに早く来ようとは。 

 

なんつーのかなぁ。

いやぁ、わたしだってこう見えて一介のグリーンコンシューマーなわけじゃん?

むしろわたしをグリーンコンシューマーと定義してるみたいなとこあるじゃん?

環境の保全やら緑化やらにはね、ちとうるさいわけ。

 

脳内メーカーとかやろうもんなら見渡す限り一面の「緑」が脳内に広がっとるはず。

後ろから名前呼ばれたら「緑?」つって振り向く。

そういう意味では、毎日がみどりの日と言っても過言ではないわけ。 

 

エネルギー資源のことだってね、けっこう親身になって考えとるだん。

生まれ変わったら化石燃料になりたいとすら思っとるレベル。

バイオガスプラントに散骨してもらってもいい。

と思ってた。

 

なのに。

ここへきて唐突な打ち止め。

うちのマンションは都市ガスでお湯沸かすっちゅー、

ドラえもんも真っ青のハイテクメカニズムになっとるだわー。

裏を返せば、ガスさえ止めちゃえば不可避の氷河期が訪れるわけで。

 

まぁ、ガス燃料自体が底を尽いたわけだから、

世界中が苦しんでるんだろうけど。

はぁー、わたしがバカンスを楽しんでる間に、

まさかここまで深刻なエネルギー不足に陥っていようとはなぁー。

 

つって、我が一生の不覚を嘆いてたら、

郵便受けに封筒が挟まってるのを見つけたわけ。

ははーん。

これはあれだ、と。

遺書だな、と。

 

大抜擢の産業革命から幾星霜、無尽蔵とも思われた夢のエネルギー源として

脚光を浴び続けた化石燃料は近代文明の象徴ともいえましょう。

そして我が家に、ひいては全世界に絶望をもたらして

名誉の最期を迎えた天然ガスの置き手紙に違いないな、と。

 

残された一通の手紙を手に取って恭しく中身をあらためたよ。

その遺言状の内容はね、だいたいこんな感じだったと思う。

 

 

前略

惜春の候、三寒四温の八十八夜が瞬く間に過ぎ去り、

暦の上ではもうまもなく立夏が訪れようとしていますが、

お変わりありませんでしょうか。

こちらは大阪ガスです。

鯉のぼりが薫風を受けて涼しげに舞いひるがえっている風物詩的光景を

幼少の頃はそこはかとなく見かけたものですが、

最近はとんと見かけなくなり縷々物足りなさを感じる今日この頃です。

五月晴れの爽やかな好天が続けばよいのですが、

寒暖の差が顕著になる季節ですから、お風邪など召されませぬよう、

くれぐれもご自愛下さいませ。

あらあらかしこ

追伸

三月分、四月分のガス代におかれましてはお支払い頂けておりますが、

二月分が未納でしたのでガスの息の根を止めました。

 

 

涙ながらに読んだ。

なにこれ?

グリーンコンシューマーに対してこんな慇懃無礼ある?

しかも何?三月分、四月分は払ってもらってるけど二月分が未納って。

そういうさ、ああ言えばこう言うみたいなの、よくないと思うんだけどー。

 

だいたい二月って!

いつの話してんのって話でしょ。

今さらノコノコ現れてガス代ヅラしないでよ!

と当然の怒りを覚えながら、

遺言状どころか果たし状みたいな挑発的な文面の手紙と

一緒に同封されてた払込取扱票的なものを握り締めて、

必要以上に握り締めて、ガス代を払いに行った。

 

外に出てみるとすでに汗ばむほどの陽気で、

本格的な夏の到来を待ちわびるような愉快な気持ちになりました。

しばらくしてガスが供給再開され、底をついたわけではなく、

どこかに隠してあっただけだったんだと分かってほっとしました。

これからの季節、冷房を使う機会も増えるかと思いますが、

そういった意味でも寒暖の差が顕著になる季節柄ですので、

地球のためにも、お体のためにも、ご自愛専一にお願い申し上げます。

グリーンコンシューマーからのお願いでした。

敬具