ガンジスとナイアガラ


昨日、大阪はちょっとだけ雨が降っとんなった。

雨自体はそんな大したことなかったぁけど、

腕利きのガンマン的なものがこの街に来てんじゃないのってくらい風が吹いてて、

だからあんま外出したくなくって、ずーっと家でひとりでお酒を飲みながら本読んでた。

晴耕雨読キメ込んでた。

 

そんでね、わたしはかなりちっちゃいころから自炊してて、

そのノウハウが高じて、創作料理っぽいもんを結構な頻度で作るだぁー。

ドン引きされるのが嫌であんまりひとには話さんだけど。

性格上、なんかそういう無駄な機動力があって。

だけぇ夕飯どきとか、割とマッドサイエンティストになってることが多いわけ。 

ミスター味っ子というよりはドクターマシリトなわけ。 

 

無難な珍品を作ることもあれば、大冒険に繰り出すときもあって、

どっちにしろ大概のもんは美味しくいただけるだけど、

ほんとたまーに、この世に生を受けるべきでなかった炊き込みご飯とか、

諸星大二郎作品で何度かお目にかかったような気がするグラタンとか、

インド人を震撼させるようなカレーとかが食卓に出現しちゃうこともある。

けど、それはそれで面白がって食べるけん結局楽しめる。

 

昨日も急にインスピレーションがインスピレーションして、

一抹の好奇心から雨風を払いのけて、

閉店間際の業務用スーパーに躍り込んだわけ。

 

肝心のメニューについてはね、ちょっとね、この場での公表は差し控えたい。

なんていうか、あのー、心臓の弱い方とかもご覧になるかもしれんし。

読むひとの想像に委ねるくらいでちょうどいい不快指数だろうなという。

いわば老婆心。

 

もうCEROレーティングでいうなら「Z」どころか軽く「GT」。

ZEN ZEN心魅かれねぇ感じになる。

美味しかったんけど、材料だけみるとグロテスクな表現とか、だいぶ含む感じになる。

 

ほんでひきわり納豆とかお蕎麦とかオイスターソースとか、

家になかった錬金レシピをひととおり買い揃えてから、

レジ袋片手にぱらぱら雨の中、歩いて帰っとった。

 

で、その帰りしなにマックがあるんだけどさ。

そこのマック、なんかわからんけど、一回も行ったことなかったの。

でもなんか期間限定?のマックシェイクバナナっていうのが派手に広告出てて。

チョロっと入ってみたわけ。

 

そしたら、まぁーね、油断しとったわ。

急にね、目の前に迫ってきてるのね。おもむろに。

何がってそりゃあ、グローバリゼーションの波が。

レジに立ってる、メガネかけた女性マッククルー。

 

完全に南アジア系。

もうほんとね、不意打ちのインド人。

 

店内の色合いともあいまって、完全に仏画とか曼荼羅とかの世界観なわけ。

釈迦じみてるマッククルーほど注文しにくい店員はいない。

メニューとか全部梵字に見えてくる。

 

注文だって、したらしたで全然油断できないの。

ポテトとか、塩の代わりにガラムマサラ的なの振ってんじゃない?

マックシェイクとか言っとるけど、ほんとはそれチャイじゃない?

つってね、店内でめちゃくちゃ疑心暗鬼なる。

 

心斎橋にアメリカ村があって、自由の女神があるくらいだし、

天王寺がちょっとくらいニューデリーで、ファストフード店がタージ・マハルでも

全然違和感ないなぁ~とか平気で思いはじめる。そうさせる何かがある。インドには。

 

マックシェイクバナナを待つあいだ、店内は割と空いとった。

ほんで余談だけど、わたしは英語がちょっと上手いだぁ。一応英検2級持っとるくらい。

ちょっと上手い英語ならわたしの右に出る者はいないと自負してる。

このそこそこの英語力と、顔立ちの異国情緒を上手いこと組み合わせると、

3分くらいなら日系カナダ人とかに擬態することもギリギリたやすい。

 

だけん、インド人が相手だろうと英語がてんで通じない、ってことはなかろうなと。

意を決して、釈迦系女子に訊いてみたの。

「Where Are You From??(意:ぐへへ、お嬢ちゃん、どっから来たんだい)」

つって。

 

で、まぁ、ここで即答でね、

「あ、ジブン、玉造元町っス。こっからだと環状線で10分くらいっスね!

地黒なんでよくからかわれるんスけど誓って関西人っスからね!

まじビリケンさんに誓います!なんならガネーシャにも!」

みたいな回答が飛び出したら、それがベストアンサーには違いないんだけど。

 

えっ全然釈迦じゃないじゃん!なーんだぁ!びっくりしたぁー!つって、

持ち前のジャパニーズで多少の雑談をたしなんでお茶を濁すくらいのことはできるけど。

 まぁ絶対そんなわけねーだろうから、どうせなら可愛らしいカタコトで、

「インディヤ、カラ、キマシタ」

くらいを期待したいところだったんだけど、

実際の反応はね、そんな甘くなかった。むしろスパイシー。

 

まず、ジッ……とこっちをみて、3秒くらい静止して、それから短く、

「………Nepal.(意:………ネパール)」

つった。

 

超ナマステー!!

ネパールきたー!!

インドじゃなかったけど、お隣ネパールが会心のナマステー!!

南アジアを弾丸トラベラー!!

 

敬語とかもう使う素振りすらなかったからね。

隠し切れぬ不信感からの、ネパール。とのこと。

 

てかさ、そこで気づいたんだけどさ、

わたし、ネパールに関する情報、何にも持ってなかった。

切れる手札がナマステしかないの。

ずっとナマステのターン。

あとは国旗がギザギザでイケてるってことくらい。

今もなお首都がどこなのかすら知らない。イスラマバード

 

んで、まだ怪訝なまなざしを向けてくるから、仕方ないから、奥の手。

日系カナダ人をオーバーソウルしてやり過ごした。

醸し出せるだけのカナディアン感を醸し出した。

さりげに「バンクーバー…」とか独り言でつぶやいてみたりして。

間一髪だったぁー。 

 

ほんで、マックシェイクバナナをもらって(おいしかった!)

風雨に晒されながらマックから歩いて帰ってきて、

マッドサイエンスの粋を集めたお夕食。

 

やぁー、珍妙な料理もいいけど、

今日の夜はなんだか不思議と、本腰入れてカレーでも作ってみよっかなぁー、って気分。