ビリギャル受験黙示録

 

センター受けるの初めてだったから、正直ドレスコードとか分かんなくて、

持ち前の茶目っ気で中学のときの制服を着て乗り込んだら

もう鳥肌立つくらい浮いたセンター試験一日目。

わたしゃ参考書か、ってくらい浪人生の視線を一人占めしてた。赤本並みの赤面。

 

やぁー、家でけっこう悩んだよー。

何着て行くのが無難かなって。

やっぱ受験生である前に乙女っつーかさ、女の子はみんなプリンセスっつーかさ、

下手なもん着て行けないなぁ、と。

 

いや実際そうそうないだぁー。

服装のことで真剣に悩むタイミングってね、そうそうない。

受験勉強浸けの生活に慣れちゃうと尚更。

部屋着のTシャツ短パンが板についてるし。

私服かスーツか、あるいは…ってとこまで考えて、まぁ、ひらめいたわけ。

「中学の制服で行けばいいんじゃない?」って。

 

いやぁー試験当日の朝に、この頭の冴えよう!

つってね、軽く小躍りしながら、何年かぶりに引っ張り出した中学のブレザー。

出来心で袖を通してみた感想としては、もうぜんっぜん違和感なかった。

 

どこにでもいる、ごく普通の超絶美少女って感じ。

具体的にいうと、同じ格好させれば

エマ・ワトソンを替え玉受験に起用できそうな出で立ち。

国立大落ちたときの滑り止め用に、

ホグワーツ魔法学校のパンフレット取り寄せようかと思ったくらい。 

 

んで、調子乗ってさ、現役時代みたいにさ、

腰回りをこう、バスタオルみたいに折り込んで丈を短くしたりしてね!

髪をモサモサにして初登場時のハーマイオニーの物真似したりしてね!!

ついでに姿見の前で軽くセーラームーンのポーズとか取ったりしてね!!!

 

もうほんと、何やってたんだろうなぁ。

ふつうに私服で行けばよかったのにね。ごめんね素直じゃなくってー。

会場入りして、教室入ってびっくりだよ!みんな私服なんだもん。

タキシード仮面様とかもね、着替え持って助けに来てくれないかなって思ってた。

ほんと、ちょー浮いてた。本家顔負けのウィンガーディアム・レビオーサ!

 

制服着てる子も絶対いると踏んでのチョイスだったのに、

わたしのいた教室には一人もいなかった。わたし一人。

タモさんストラップとか貰えるんじゃないかってくらい、一人。

もうね、ちょっとした紅一点っつーか、ほんと馴染めなさすぎ過ぎて、

軽くわたしが主役で、周りがエキストラの皆さん、みたいな構図になってた。

 

エキストラも、割とザワついてたからね。

エマワトソンが学生服でスタジオ入りした事実に。

ザワつきたいのはこっちだっての。

そりゃ注目もされるってな話でね、初受験なのに、

気付いたときには浪人生たちから一目置かれる存在になってた。

 

で、まぁ、試験自体はね、余裕だった。

もうね、チョロいの一言。不正解なのは服装だけ。

つーかむしろコスプレっつーハンデがちょうどいいくらいの難易度。

半年前まで中卒だったとは思えないくらい、まったく苦戦することなく、

第一印象から決めてました!くらいの勢いでマークシート埋めてった。

 

そんなこんなで二日間のセンター試験をさくっと切り抜けて。

自己採点したら八割強取れてて、あらためて「チョロいなー」つって。

滑り止めの私大も抜かりなく合格して、いよいよ残るは大本命。

第一志望のね、関西の国立大学。

勉強もばっちりしたし、イメトレも万全。

意気揚々、自信まんまん、闘争心ムキムキで、大学へ向かった。 

 

…えーと、ちょっと話変わるけど、科挙って知ってる??

大昔の中国のね、皇帝直属の官僚になるためのね、

いわば公務員試験みたいなもんなぁけど、すごいの。

 

いや何がすごいかってね、

まず四歳くらいからすでに漢字やら儒学やらの勉強を始めるのね。

ほんと、四歳っつったらね、生後四年。

大学とかじゃなく、生後四年で、就活。

そんな頃から、分厚い本をひたすら暗記したり、歴史やら政治やらを学んだりね、

とにかくもう尋常じゃない勉強量なんだけど。

 

そっからさらに何十年もかけて、ひたすらめちゃくちゃ勉強して、

試験という試験を全て突破したほんの数名、

最高峰のエリートだけが、晴れて官僚になれたんだそうで。

この倍率数万倍ともいわれる国家試験制度全体を、「科挙」と呼ぶわけです。

 

お昼の休み時間に校庭でサッカーしてる同級生たちを尻目に、勉強。

修学旅行の夜、コイバナと枕とドロー4が飛び交う部屋の隅で一人、勉強。

「放課後、鉄棒の前で待ってます」的な女子からの手紙を見て見ぬふりで、勉強。

小学校の頃クラスにそんな子がいたらもうね、絶対いじめちゃうと思う。

 

絶対机の中に銀杏とか入れるし、給食のパンに穴開けるし、眼鏡とか隠しちゃう。

時間潰すために逆上がりしすぎて

手がマメだらけになって泣いてる女の子を励ましつつ

聞こえよがしに「カナちゃんかわいそー」て言う。言いつつパンに穴開けちゃう。

そんな幾多の試練を潜り抜けた選ばれし秀才のみがね、

満を持して、科挙をクリアしていくわけでー。

 

んー。

だからまぁ、科挙かな?って思ったよね。

大学行って、試験始まってすぐ、科挙かな?って。

ほんと、ヤバいなって、あー場違いなとこ来ちゃったなーって、肌で感じた。

試験問題の難易度っつーか殺気がね、想像以上にすごくて。

でも周りはスラスラと、鼻歌交じりくらいの感じで解いていってて。ちょー焦った。

 

周りの受験生は確実に国内きってのエリート集団なわけ。

みんなもれなくメガネっ子。もれなくダニエル・ラドクリフ

両目合計4.0というオスマン・サンコンさん並みの視力を持つわたし。

図らずも、二次試験でも浮く結果になったよね。

 

4.0を持ってしても、全く解ける見通しの立たない問題。

もうね、目の前が真っ暗になった。

オスマン・サンコンさんばりに真っ黒になった。 

だって、この試験のために4.0歳から勉強してきたような連中相手にね、

はたして勝ち目があるのかっつー話でね。

 

解けそうな問題だけをがむしゃらに解きながら、心底思ったよ。

コスプレすべきはここだった、って。

うさ耳バニースーツで大学乗り込んでさ、

ピリピリムードの受験生の集中力に全力でマヌーサをかける以外にね、

勝算ないんじゃないかなって。

気付いたときには試験終ってて、失意のまま京阪電車に揺られてた。 

 

いやぁー、わたしなんかは完全に独学でね、

中卒という逆境から、ここまで這い上がってきたわけ。

模試や予備校に手を染めることなく無手勝流でね、

最終試験のステージにまで漕ぎ着けたわけ。

よくやったほうだと。

実際、自分にしてはよく解けたほうだと。

 

どんまいどんまい、私大でいいじゃん!と思ってるうちに三月上旬、合格発表の日。 

帰宅後にヤケ酒する準備を整えてから、ていうか前もって軽くヤケ酒してから、

京阪電車に乗って、小雨が降るなか大学へ。

 

行ったら受験生いっぱいいて、

合格したっぽいひとが空手部的な集団に、小雨が降るなか胴上げされてて。

んで、合格者の受験番号がね、学部ごとに貼り出されてて。

 

いや、ほんと、信じられないことに、合格してた。

自分の番号みつけて、うわ、あるし、ってなって。

でもなんか、不思議とそのときのこと、あんま覚えてないだぁー。

なぜか散々ラム酒をかっくらったあとみたいに、頭がぼーっとしてた。

ただ、合格したなぁー、って思った。

 

入学して二ヶ月くらい経った。

今日も小雨が降るなか、大学に来てる。

通学に一時間弱かかって毎日ちょっとした遠足気分だけど、割と楽しい。

 

授業の難易度がえげつないくらいえげつなくて毎時間びびってる。

そういえば、一度科挙に合格したら、その家は末代まで栄えたのだそうで。

家に帰るまでが遠足。卒業するまでが科挙

卒業、できたらいいな。がんばるぞー!